支援先の定期訪問の日。月次決算が終わったというので、決算書を見せてもらう。すると、予想していたよりも期待した成果が数字に表れていない。
すぐに、社長にその理由をお尋ねする。社長は頭の回転の速い方なので私の質問にスピーディーに答えていく。しかし、私は、「社長が言っていることは本当だろうか」というスタンスで話を聞く。「今、仰った傾向とは、どの資料を見れば数字として表れていますか。」こんな質問を投げかけていく。
「俺の言っていることが信じられないのか!」なんてことは社長は言わない。お付き合いしてから1年、私がこういうスタンスであることを社長は理解してくださっているからだ。この姿勢は、森井先生から私が教わったことである。社長も自分の感覚が、事実と食い違っていないか、単なる主観で言っていないか、それを私がチェックしていることをわかってくださっているのだろう。
話し合いの結果、この会社では在庫削減が資金繰りの改善のみならず、損益ベースでの改善につながることも明らかになってきた。今まで、仕掛在庫が多いのはわかっていた。しかし、ここまでこの企業にとって多方面への影響を与えていることがわかり、社長も私も愕然とした。在庫削減が喫緊の課題である。
私の頭の中には、瞬時にキーワードが浮かんでくる。セル生産、同期化、多能工、JIT、松下、キャノン、職務基準書、一人屋台方式、リードタイム、手渡し・・・この中から慎重に言葉をピックアップし、社長にこの会社には何が必要なのか図をもって説明していく。
「大石さん、こういう話は現場でしよう。」社長が私を連れて社長室から工場へと歩いていく。仕掛在庫の現状を二人で見ながら、「ここでセル生産できるのか」「やるためには、これだけのスペースがいるなあ」「今の流れ作業よりも、セル生産で本当に効率上がるの」と話をする。それに私は答えていく。
工場の一番奥に着くと、社長が主力社員に集合を掛けた。私が説明したことを社長は自分の言葉で社員に話していく。そして、「究極の在庫削減の手段として、一人で部品から製品まで連続して造り上げるセル生産が理想であることは、大石さんの説明でなるほど、理解した。しかし、それが直ぐうちで可能とは思わない。でも、セル生産をあるべき姿とした時に、今の現状とのギャップを埋めるために、まず出来ることはないだろうか。」と社員に発言を促す。
皆も、在庫だけに目を向ければ、セル生産が理想であることは理解している。しかし、時間当たりの生産性については疑問を持っているようだ。なかなか意見が出ない。私は、松下やキャノンの事例を出していく。そして、セル生産を行うためには、まずは多能工を育成することが前提であることを説明し、まずは多能工化を進めることから始めてはどうかと提案する。その上で、多能工化のその会社における具体的提案、A工程とB工程を在庫量に応じて行き来する多能工の育成を提案した。
その提案を聞いて、社員から、「いや、AとBなら、BとCの方が良い」とか、「彼なら、すぐにAとBは出来そうだ」「大石さんが言っていることは理想だよ」という発言が続く。そして、数分の議論の後、私のAとBという案ではなく、まずはBとCから始めようという事に決まった。その手順も、きわめて具体的だ。
社長と話しを始めてから、ここまで2時間、具体的な改善案が社員の手によって造り上げられた。社長は、大変満足してくれた。また、2週間後、この会社を訪問するが、この結果がどのようになるのか楽しみである。そして、こんな一日を過ごした後は、この仕事に対して大きな充足感を感じるのであった。
この会社は必ず、大きくなると私は確信している。
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